【トヨタ・ヤリス、販売台数トップ!】欧州カーオブザイヤーも獲るし、日産のノートe-POWERは反撃できるか?

トヨタ

欧州カーオブザイヤーを取り【トヨタ・ヤリス、販売台数トップ!】を走っている。日本国内、2021年2月の新車販売台数ではトヨタ・ヤリスがトップだ。対して、ノートe-POWERの、かつてのライバル日産は7位に顔を出すだけだ。なぜ、これほどの差がついてしまったのか?ホンダも10位圏外に追いやられてしまった。これに後付けの理由はいくらでも探すことはできるけど、『トヨタの強さは戦略にあり』としか言いようがない!それを、経営的な視点で見てみたい。



なぜ、トヨタ・ヤリスはそんなに売れるのか?

「ヤリス販売戦略」は、すでに2012年のBMWとの提携から始まっていた!?

今回のモデルチェンジに始まる「ヤリス販売戦略」は、どの時点で始まっているのかについて、期限を区切ることは難しい。そして、自動車ジャーナリストも、ヤリスの現モデルの設計を始めた時期と考える人は多いのかもしれない。

1つは、2017年、18年ぶりにトヨタがWRC参戦した時であったと理解できる。

もう1つは、2012年、BMWとの共同作業が始まった時期であると言えるかもしれない。この年は、TNGA(Toyota New Global Architecture)構想を打ち出した時でもある

トヨタ、BMWと提携強化…スポーツカー共同開発(レスポンス、2012年6月29日)

はたまた?、豊田章男社長自身がテストドライバーになった時からだとも言えるかもしれない。

トヨタの動きは「戦略的」

つまり、このトヨタの方針は「極めて戦略的」であることの表れだ。そして、トヨタの戦略は現在も続いており、富士の裾野に建設中の「Woven City(ウーブン・シティ)」が示す未来の戦略ももちろん入っている。

対して、日産の「ノートe-POWER」は数十年の開発の歴史はあるが、戦略的に進められてきているだろうか?

また、ホンダのクルマは「様変わりした」。それはまるで、かつてのトヨタ車の狙いのようである。ホンダは最近、小型車、特に軽四輪車では販売実績を伸ばしてきたが、かつてのホンダらしい技術的トピックスはない。トヨタの後を追いかけてきたHVもFCVも鳴かず飛ばずだ。

※トヨタもBMWも未だに創業家の経営って知ってました??➡世界が注目!意外に多い!成功している「同族経営

 

金融知識による経営の間違いとは?

自動車メーカーは「流行を追いかける」でいいのか?

ホンダも日産も、世界の趨勢で「グローバル経営者」に経営を任せてきた。グローバル経営者は金融知識で判断することが多く、「資金効率」優先である。しかし、トヨタもまた「資金効率最優先」の取り組みをしている。

でも、日産、ホンダの資金効率と、トヨタの資金効率は違っている

「資金効率」の尺度を「投資感覚」で見ているのが、日産やホンダの「グローバル経営者」の特徴と言っていい。”その時”「どの分野に投資すべきなのか?」と見ている。

例えば、ホンダ・新型フィットは「ファミリーカー」との結論になった。それは、現在のMR(マーケットリサーチ)で示されるからだ。現在どのターゲットに売れているか、人気があるかがデータで示されているのだが、”その時の”「顕在市場」だけを見ている。それ以外の「潜在市場」には目を向けられていない。今後発展するかもしれない潜在市場にだ。

だから、ホンダと同じように判断すると、トヨタのやった「WRCラリー参戦」の結論は出てくるはずもない。”その時”「直接売上げに結びつかないレース参戦はムダ」と考えられるからだ。

でも、長期的には「潜在市場」を推測できていなければ、経営的には出遅れるのだ。

マーケットリサーチで「潜在市場」を見つけ、創造する!

実は、MRは、かつてからトヨタがやってきた製品開発の手法だ。それは「60点主義」とも言われた開発手法で、カローラが長年のヒットブランドとなっているのもそのおかげだ。しかし、当時、どのメーカーもそれを用いなかった。むしろ、技術的先進性を争って、逆を行っていたのが日産であり、ホンダであった。

各社の販売戦略の動きを比較してみると、トヨタはいつも『MRにより「潜在市場」を見定めている』とも言える。

そして…。

2012年にBMWと提携強化したトヨタは、2019年の新型スープラで、BMWとの共同開発で開発手法の違いを学び取った。それは、市販車ではなくレーシング仕様を先に開発して、トレッド・ホイルベースなど基本仕様を決め、後に市販車のパッケージなどを決めることなどだ。

なぜ、BMWやメルセデスベンツが良いクルマとされてきたかが、そこにあるのだ。つまり、限界を求められる過酷なレース仕様を先に造ることで、車の基本性能を上げ、それは同時に安全性を高めることにもなり、市販車のベースとなっていく。市場で求められる基本的な「走るクルマの商品価値」だ。

そして、トヨタは実際にWRC参戦してクルマの基本性能を学び、独自のTNGA(製造手法)で「資金効率」を最大にする手法に繋げ、現在の「トヨタのビジネスモデル」を作り上げてきている。

ホンダや日産の「金融知識によるビジネスモデル」では「どのビジネスモデルに投資するべきか?」と考えているが、トヨタは「クルマのビジネスモデルは如何にあるべきか?」と常に考え続けているのだ。

というか、経営とはそういうものではないのか?

その時々の目ぼしいものをつまみ食いするのではなく、創造していかなくてはならない。

創造と言えば…奇しくも、今のパナソニック(松下電器、ナショナル)の創業者である松下幸之助氏も言っていた。

経営は生きた総合芸術である」と。

 

プラットフォームの共通化は、製造業にとって核心

日産の新型ノートe-POWER(2020年12月発売)は、CMF-Bと呼ばれる、ルノーと共通のプラットフォームを利用する。そのため「特徴がなくなるのでは?」と懸念する意見がみられる。

自動車ジャーナリストに理解されない「プラットフォーム共通化」

そういう意見が出てしまうのは誠に困ったことで、トヨタのTNGAなどの製造手法を理解できていないからだ。”共通プラットフォームや共同開発のねらいは、開発のスピードアップや効率化、ひいては全体の品質向上にある”(下記記事より引用)などと理解している専門家が多いけれど、これでは理解が足りない。
『Response:【日産 ノート 新型】共通プラットフォームは車をつまらなくする?…CMF-Bに見る戦略』

プラットフォームの共通化には、以下引用のように、様々な車種を1つのラインで1つの車種を造るように流せることに莫大なメリットがある。リーマンショックでの間違いを2度と犯さぬように…。

トヨタが目指すところは、シャーシの共通化だけでなく、それによってラインの共通化を図り、生産の平準化が出来るようにして世界に点在する工場の稼働率を安定させて、過剰な設備投資が無いようにすることと、減産に対応してコストも下げられるようにしようとしているのです。

車種ごとに専用ラインを持っていると減産になったときにそれぞれの必要な生産設備が遊ぶこととなりますが、共通に使える設備が増えると、増産・減産と機種ごとにバラツキが出ても、工数を融通する量が増え平準化がしやすくなって固定費が下がることになります。

言い換えると固定費を多く準備しなければならなかったのを融通しあうことで少なくて済むのです。これを世界規模で生産工場単位を超えて融通しあうことが出来れば、無駄が減りコスト削減が出来ることになります。

【TNGA(Toyota New Global Architecture)-3】より

これは、製造業を経験したことのある経営者じゃないとピンとこないのかも?

共通プラットフォームを使って「つまらないクルマ」を造るなら、自動車メーカーの経営を辞めることだ。理解が足りない。

 

総資金量を削減する努力は生産方式の開発でしか実現できない。しかも企画・設計段階からだ。もっと言えば、生産システム開発がテーマでMRと結びついて具体的車種が決まる。

いろいろ遅れてるけど、日本はインダストリー4.0に絶対遅れてはならない!

プラットフォームの共通化の目指す先は、もっと大きな目標、インダストリー4.0(第四次産業革命)を目指しているんだということも理解してもらいたい。

ネット社会は進んでおり、いずれ自動車の注文の仕方もネットを使うことになる。また、自動運転の普及で自動車の役割そのものも変化してきており、自動車生産には「スウィング生産」「順序生産」など、さらに「ジャストインタイム」を追求する動きが加速している。

BMWはというと、100ものオプションを自由に組み合わせて「準オーダーメイドの1台を量産車の値段で提供する」ことを、インダストリー4.0の一環として狙っている。すでに、「AIを使った生産管理システム」をテストしている段階だ。現在は小さな実験段階だが、これからユーザー側の認識も確実に変化し、自動車を家電のように捉えて、ネットで注文することが当然となってくるだろう。

こうした市場の将来のニーズに応えるには、世界の生産拠点を情報で繋ぎ、生産品質のレベルを合わせ、生産量を情勢に合わせて瞬時に調整でき、ユーザーが求める商品を極めて短期間に生産可能にすることが求められるようになる。

それには、共通プラットフォームのような「生産方式」の開発が必須で、TNGAもそこに向かっている。日産もホンダも同様のことを求められていくはずだ。

それは、『資金効率は生産方式で決まる』からだ。

そして、これが現在のトヨタの強さなのだ。

 

日産・ノートe-POWERの逆襲は有効か?

長い目で見て、「新型日産・ノートe-POWER」は「初代ノートe-POWER」の出来たときより戦略的価値は高まっていると言える。

目先の必要性を追いかける車種開発ではなく、「EV化に向けた開発」と言った意味で戦略的な動きと言える。「EV化が必ずしも当たる」とは思えないが、経営的に見て、何らかのビジネスモデルを目標として設定し、努力していく形にはなってきたと思う。

そもそも、「ルノー・日産・三菱」の三社アライアンスが必ずしも戦略的ではなく、カルロスゴーン元会長の野心で生まれたと言って良い。

そのため、トヨタの「TNGA」のような戦略的方針がなく、資金効率向上策には日産は立ち遅れている。日産の経営陣の「生産方式」に対する関心は希薄で、「現場の技術的問題」程度の認識しか持ってこなかった。

そのため「トヨタの生産方式」開発に大きく遅れて、ルノーに買収され、さらに現在の遅れを背負ってしまった。ホンダでも、グローバル経営者は金融知識で経営するため、製造業は「生産方式が資金効率を決める」ことを全く知らなかったようにも思えるほどになっている。

残念ながら、『トヨタの長年練られた戦略勝ち』で、現在、日産・ノートe-POWERはとても反撃できる強さはない。しかし、日産の将来に期待できる内容がある

今「国産車で購入したい1車種を選べ」と言われたら、迷わず「日産・ノートe-POWER」と答える。