トヨタ自動車が、「五大陸走破プロジェクト」を行っていることを知っているだろうか? 2014年豪州、2015・2016年米州、2017年欧州につづいて、今回は4大陸目のアフリカに入った。トヨタ自動車以外にも、スズキ、日野自動車、トヨタ車体から人材を集めて混成80名のメンバーを結成している。このプロジェクトの意味をとらえると、企業統治、チーム運営、人材教育などさまざまなことを勉強できるだろう。
↓↓↓トヨタが2018年9月中間決算で、過去最高の売上高となった。利益率も他社を上回っている。これは、TNGAの効果が出始めたのではないかと筆者は見ている。だれもそれを書くジャーナリストはいないが、製造業は”造り方”で成り立っているからだ。
【トヨタ 9月中間売上が最高】https://t.co/ftupipU2Xt
トヨタ自動車は6日、2018年9月中間の連結決算を発表。グループ全体の世界販売台数の伸びに伴い、売上高が前年同期比3.4%増の14兆6740億円と過去最高となった。
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) 2018年11月6日
社員の全人格を尊重する取り組み「5大陸走破プロジェクト」
きっかけはトヨタの慢心
2008年9月に起きたリーマンショックは、トヨタ・豊田章男社長に大きな警鐘を鳴らしたのだろう。当時、生産台数世界一を記録し、純利益2兆円を超え、勢いに乗っていたトヨタだったが、リーマンショックにより減産に差し掛かってみると、一気に赤字転落してしまったのだ。
「トヨタのかんばん方式」は変動に強いはずだったから、これはトヨタ経営陣にとって大きなショックであった。だから、「より変動に強い、平準化した生産体制が必要だ」と痛感したはずだ。
『生産台数世界一を転げ落ちたが…?』とジャーナリストたちに聞かれると、トヨタは『単に生産台数世界一でも仕方がない』と答えるようになった。その言葉には、生産台数世界一を目指して、新車種を開発して増産・増販に励んでいるうちに、車種が増え、パワープラントの数が増え、そのため減産に入ると其々の生産ラインの稼働率が落ち、全社の稼働率が落ちて、赤字が生じるようになってしまった”反省”が含まれていたのだろう。
そこでトヨタは、「平準化」(平均化、ならす)の重要性を痛感し、「混流生産」「順序生産」「スイング生産」などに取り組むようになったのだ。
また、トヨタにとって、マツダの「スカイアクティブ・テクノロジー」はショックであったであろう。トヨタに先駆けて、マツダは「トヨタのかんばん方式」を進化させていたのだった。昨年(2017年)まで、マツダは全車種を同一のプラットフォームで造っていたのだ。
トヨタほどの生産規模では全車種同一プラットフォームというわけにもいかないが、数種類のプラットフォームと数種類のパワープラントに集約することはできるはずだ。そのことにより「混流生産」が進み、車種ごとの販売台数の変化があっても、全体としての変動を少なくすると同時に、ラインの本数を変動させることも容易になって行くのだ。
つまり、今後リーマンショックのような事が起きて減産に追い込まれても、損害を以前より少なく治められるのだ。
トヨタの長期計画
モビリティサービス(MaaS)専用電気自動車(EV)である「e-Palette Concept」をトヨタは2018年初頭に発表し、サービス業の基幹を担うことを示した。
eパレット、デトロイトのバス感あるね…立ってる人はアンドロイドかな…
トヨタ、レベル4の自動運転実験開始へ 東京五輪に向け:朝日新聞デジタル https://t.co/EE5FMKo9xH
— mimi (@mimi0425) 2018年7月24日
自動運転、EV化、シェアリングなど「車を所有する」ことから、「使用する」コンセプトに世の中が変化することに対応する決意を固めている。移動、物流、物販などに活用する車はガソリンエンジンでもあるのだが、自動運転などユーザーのニーズはシェアリングなどの方向に傾いていく。車を利用して行うサービス業に直接参画するのではなく、そのプラットフォームを提供する企業に生まれ変わると宣言したのだ。
しかしそれでも、トヨタのスローガン「よいクルマをつくろうよ」に変わりはなく、社員全員が心を同じくして「高い品質を保ち」「安く」「タイムリーに」車両を生産することに励むしかない。
そこで、「5大陸走破プロジェクト」の意味だ。
『5大陸走破』の持つ意味合い、「もっといいクルマをつくろう」
「5大陸走破」は、TOYOTA GAZOO Racingのプロジェクトだ。
トヨタ「5大陸走破」で得たものは https://t.co/OtiN6MQpcA #トヨタ
— 楽天Infoseekニュース (@Infoseeknews) 2018年11月1日
毎年開催される「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」に参戦するのと同じ意味合いがある。トヨタの全世界の社員と、関連会社の社員が自らステアリングを握る。そして、現地で販売されたトヨタのクルマを使って、現地の人々が日常使用する道を走る。
一方、今回の2018年アフリカ走破では、日野自動車、トヨタ車体といったトヨタグループ各社と、グループ傘下ではないがスズキの社員も参加してのオールトヨタ・プロジェクトだ。
2014年 オーストラリア 約20,000km(72日間)
2015年 北アメリカ 約28,000km(109日間)
2016年 南アメリカ 約20,000km(84日間)
2017年 ヨーロッパ 約21,000km(85日間)
2018年 アフリカ 約15,000km 8月末~11月初旬予定
この「5大陸走破」が意味するのは、「もっといいクルマづくり」を担う人材の育成に寄与するということだ。これを、直接的に理解することは難しいであろう。
財経新聞 トヨタが「5大陸走破」に込めた創業家・豊田章男氏の魂 勇気ある取材を称賛 財経新聞 もっといいクルマを造ろうよ」と、2009年就任のトヨタ社長・豊田章男氏が掲げたテーマは、自動車メーカーが品質を保証し、さらなる技術革新… https://t.co/CtZNIpi2OO
— トヨタニュース (@Toyota_News2) 2018年11月4日
品質不良を起こすメーカーたち、現代企業経営の質の変化
昨今、日本企業の検査データ書き換えなど、品質に対する姿勢が問われる事件が多数起きている。これらの原因や対策などについては、多くの見方、意見があることだろう。しかし、その基礎はかなり明確であると感じる。それは、「企業経営の質の変化」だ。
変化の原因の第一は、「株式配当の圧力」だ。
世界経済は、”新資本主義”と言われるほど「マネーゲーム」が進んでいる。
なによりも「投資効率」が重要視される。経営にあたる取締役も「投資家である株主」の意向に従う「雇われ重役」だ。その短い任期の間に、高い配当を求める圧力がすごい。労働組合は世界的にも全く力を無くし、働く者たちの権利は希薄になっている。共産主義の労働者の代表である中国共産党が、まるで資本家のようにふるまう現在の世の中では、どうしても労働者の権利はなくされてしまう。
↓↓↓市場万能・株主至上の金融資本主義の欠陥が露呈している今、この著者は、新しい資本主義のあり方である「公益資本主義」を提唱している。
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その中で、短期の利益を求めて、企業経営者たちはマネーゲームに等しい動きを取っていく。残念ながら、人間社会のインフラとしての機能を企業に求めることはなくなってきた。下手をすると「人権侵害」とも思われる企業の施策が、堂々とまかり通ることとなった。
そうなると当然のことながら、従業員たちのモチベーションも偏りはじめ、今年問題となった一連の「検査データの改ざん」ぐらいなら良心を痛めないようだ…。会社側から「何のために日常の業務があるのか?」「自分の人生と仕事とのかかわり」なども示されず、「仕事が生きがい」となることもないのであろう。
仕事の現実の意味(自分の仕事がどう役立っているのか?)
しかし、トヨタの行う「5大陸走破プロジェクト」に参加している社員たちは、自分たちが販売しているクルマが現実に対峙している場面を、今走破しようとしているアフリカでも目の当たりにしているだろう。そして、おのずと「自分がしている仕事の意味」も感じられてくるのだろう。
例えば、普段会社で自分の担当している仕事が、単に「部品の手配」だけであっても、実際(お客様)の現場で起きることに対処するために、「大切な働き」があることに気付くだろう。その小さな努力が大きな力となることも実感するのかもしれない。
これが、トヨタの「5大陸走破プロジェクト」に秘められた効果だ。
これに対して、「投資効率」しか考えない経営者であれば、「5大陸走破」プロジェクトの必要性を認めないかもしれない。宣伝効果もなく、販売に繋がる訳でもなく、社員が経費をかけてドライブしているのだから、投資家が認めるはずもあるまい。
しかし、製造はそうやって「力を込めて作業しなければ品質保証はできない」ことを知ることだ。
トヨタは人材を育て、基礎となる『匠の技』を保存している。また別途、学校を造り、こうしたプロジェクトを繰り返して、「人と人のつながり」を認識することを教えている。驚くのは、この「5大陸走破プロジェクト」に参加してもレポートは要求されるようだが、特に仕事での義務はなく、「成果は参加した人に託されている」ようだ。
創業家・豊田章男の下で働くということ
トヨタの「5大陸走破プロジェクト」は、まるで国家が将来の人材を育成するかのように、社員たちを育成している。これは「創業家」でなければ思いつかないことである。結果として、社員たちの人生を作り上げる指針を示していることになる。欧米の資本家たちには想像もできない発想なのだ。短期のマネーゲームでは想像もできないチャンスを、トヨタ社員たちは与えられていることを自覚してはいないだろう。
自動車産業100年に一度の変革期に、創業家のリーダーを持った幸せをトヨタの社員は自覚するべきであろうと思う。そしてこのチャンスを最大限に生かして、「よいクルマをつくろう」と励んでほしいものだ。それが、日本国民全体に良いプレゼントとなるはずなのだ。
そして何よりも、日常の不満は置いといて、『人間として全人格』を会社から認められていることを自覚すべきなのだ。これは、テスラの社員であったら決して得られない価値あることに気付いてほしい。さらに、日産・スバルなど品質に問題を起こした企業の中でも、この問題、すなわち『社員の全人格を尊重する取り組みとはいかなることか?』を考えてほしいものだ。製品の高い品質はその中からしか生まれてこないことを知ってくれ。
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