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TBSドラマ「下町ロケット」の話は、ホントなのかウソなのか?実体験から検証してみる~イモトの演技はオーバー??

2018/10/30

TBSドラマ「下町ロケット」の続編はまた始まった。初回の視聴率が13.9%で予定より良くなかったこと、キャストに芸人が多いことなどが注目されているようです。しかし、舞台は精密機械工業と言うことで、筆者には深いかかわりのある内容で、一般のドラマファンとは違った見方をしています。ドラマの内容がウソかまことか、実際にあり得ることなのか検証してみたいと思います。日本の技術のすごさをちょっとでもわかって、不正などせずに将来も維持しつづけてほしいと思います。



 

”佃製作所”がロケット部品と農業トラクターエンジン部品両方を製造できるのはホントか?

TBSテレビドラマ「下町ロケット」については、製造業のサプライヤーの在り方について検証していくと大変勉強になるかもしれません。ドラマの主人公「佃製作所」はサプライヤー(供給元、納品業者)です。

まず、第一話に限っての理解ではありますが、前作の「ロケット部品」と今作の「農業用トラクターのエンジン部品」では、製造技術・生産技術の違いを無視しての話となっています。つまり、「ロケット部品」と「農業用トラクターのエンジン部品」と同列に扱うことはあり得ないのです。

そこで、「職人芸の手作り」と「量産システム」との違いから、話を始めるしかありません。

 

「職人芸」と「量産システム」の違い

「製造業」というと「ものづくり」。それで、手作りの伝統工芸や町工場の「職人芸」と混同してしまっているのが現状のテレビの世界など一般の理解ですが、「量産技術」との違いを認識して置くことも必要です。

職人芸とは

職人芸はイメージしやすいと思います。一人の経験豊かな職人が身に着けた技術で、彼らは長年の経験で作業の「勘」を会得しており、それは驚くほど正確であったり、繊細であったりします。これを見ると、人間の経験のすごさを感じます。しかし、このことはこれからAIに与えるデータを用意するとき、非常に参考になることでしょう。

 

私は製造業を担っていた経験から、優れた機械加工の職人とかなり密に技術的打ち合わせを重ねていました。ちょうど、ドラマに出てくる佃製作所の技術開発部の人間や、イモトアヤコ扮する島津裕(元帝国重工の天才エンジニア)に値する人物と打ち合わせしていたことになるでしょうか。

当時、私は、コンピュータ制御の工作機械のセッティングをしたのですが、彼らは機械の持つ性能まで熟知しており、「熟練」と言えばそれまでですが、コンピュータ制御では追いつけない技術を持っていました。

これは、何を表しているかと言うと、どれほどAIなどで制御するようになっても、元になる切削技術が分からないと、AIを育てることもできないということなのです。

だから、トヨタなどは、手作業の職人芸を絶やさないように、「学校」(トヨタ工業学園、トヨタ東京自動車大学校など)を設けて継承に努めています。

これは大切なことで、AIに与えるデータを作る時、貴重な指針を与えてくれるはずです。

ドラマ「下町ロケット」前作の、ロケット部品は単品特注品で、手作業による職人芸の技術が産んだ製品です。

 

量産技術とは

現在、神戸製鋼・日産・スバルなど「品質保証」が問題となっていますが、これらは「同じものを大量に作り続ける」技術と考えてよいでしょう。もちろん、これは「職人芸」とも繋がっています。しかし、私たちの周りにある生活用品のほとんどが、量産技術によってできて製品です。が、その「同じものを安定して大量に作る」量産技術のすごさを本当にわかっている人は少数です。象徴的なのは、「トヨタ生産方式」です。

今回のドラマに出てくるギアゴーストのコンペで認められた佃製作所の、パイロットとなる試作品が優秀な性能を示すとすれば、その後、それと「同じものを安定して大量に作る技術」はまた別物であると言えます。これは自動制御が得意とする分野ですが、「持続すること」がキーワードです。

※ちょっと蘊蓄(うんちく)。ドラマの「ギアゴースト」は、いわゆる”ファブレスメーカー”の位置づけ。”ファブレスメーカー”とは、工場(生産手段)を持たないメーカー(製造業)です。しかし、ファブレスほど高い技術力と管理力を持たないと、企業は維持できません。

ドラマ「下町ロケット」今作の、農業用トラクターのエンジンは同じ製品を多数生産しなければならないので、量産技術を確立しなければなりません。現代では、マツダが最も進んでいるようですが、企画・設計段階から量産を考慮に入れた設計を行っています。

 

ドラマ「下町ロケット」では、「ロケット部品」と「農業用トラクターのエンジン」とを造っていたのが佃製作所であるとなっています。しかし、この二つを製造するには、別物と言ってよい技術が必要です。

よって、二つの技術を同時に行うには、1つの企業の中に2部門があると考えるのが普通でしょう。

 

”ヤマタニ製作所”がいきなり低価格エンジンに切り替えるのはホントか?

ドラマ「下町ロケット」の第一話で、トラクターメーカー「ヤマタニ製作所」が佃製作所の高性能エンジンから、「ダイダロス」の低価格のエンジンに切り替える姿が描かれていました。

ドラマではあれでよいのでしょうが、現実のことであれば、購入先のトラクターメーカー「ヤマタニ製作所」は”管理力がない”と言ってよい状態です。

「コスト削減」は二の次。「安定性」が最優先!

サプライヤーチェーンを作り上げる企業を経営する立場で考えると、管理ポイントとして最優先とすべきは「安定的供給」です。「性能」でもなく、「コスト」でもなく、「安定して供給する体制」なのです。つまり、「管理力」です。

現代のサプライヤーは「1時間納品」出来るぐらいの力が要ります。それが多種少量生産の基本となる管理力です。

人材を考えるときも「毎日必ず会社に来る」ことが前提で、技術力が生かされます。「仕事」では何よりも「安定性」が必要で、量産技術の基礎の基礎が、「安定して生産出来る」ことなのです。

私たちは普段意識できてはいませんが、通勤に使っているクルマに要求していることは、故障せず、毎日必ず会社まで乗っていくことが出来ることです。これが「品質保証」の基本中の基本です。

なので、ドラマ「下町ロケット」で、エンジンの大部分をコストダウンのために、「佃製作所」から「ダイダロス」に仕入れ先を一度に替える施策はありえないことです。

新規の仕入れ先、つまりダイダロスが安定して供給できることを確認しなければなりません。現実では、一部部品を発注して能力を確認することから始めるのです。いきなりすべてを変えるのであれば、これまでの発注者の管理体制を見直さねばなりません。

「性能」でもなく、「コスト」でもなく、「安定して供給する体制」が最優先なのです。

「安定性」の次は「性能」

その次に重要なのは「性能」、つまり「品質」です。「コスト」ではありません。

特に、ドラマの題材であるトラクターのような農機具に関して、エンジンのような部品は「部品」とも呼べないほど、トラクターの性能形成の中心的部品です。これを短期間にいきなり取り換えてしまうことは出来ないことです。

これについては、いくらドラマと言っても「ラフ」な設定でありすぎます。製品の設計性能は明確であるはずで、それを変更するとなると、サプライヤーを含めて企画段階から考えるのが現代のサプライヤーチェーンの在り方です。

また、ちょっと専門的になりますが、「混流生産」「順序生産」「スイング生産」など平準化が求められるネット時代の時代背景(第4次産業革命)が、ドラマでは見えてきません。

ドラマ全体の時代設定がいつなのかが明確ではありませんが、ロケットの話だと「現代」と言える時代に思えます。原作・脚本家・監督などの製造業に関する「時代考証」が抜けているようにみえてしまいます。

 

部品点数の少なさに感動した「イモトアヤコ」の演技はホントか?

イモトアヤコの演技は大げさじゃない!

今回の『下町ロケット』初回では、「ギアゴースト」のコンペで「大森バルう」と闘い、”部品点数の少ない”佃製作所の製品の「耐久性」が優れているとの見方を取って、ネット上では「涙を流すイモトアヤコの演技がオーバーだ」とする批判もありました。

しかし、製造業において、部品点数の少なさは「称賛に値する」事柄であり、必ずしも「オーバーな演技」とも言えないのです。(「大森バルブ」は試験の結果スペック的には優位でした。しかし、島津が目を付けたのは部品点数。「大森バルブ」が491点、「佃製作所」は153点。これは、製造業としては当然考えます。何故かと言うと、部品点数が多い分、工数も多くなってしまうからです。つまり、手間と時間がかかるのです。コストにも当然関わってきます。また、部品点数が少ないほうが、メンテナンスに有利です。)

ドラマの中で佃製作所の油圧バルブは、バルブとしてのスペック性能は「大森バルブ」に劣るものの、「耐久性」がトラクターにマッチしていると評価することは、イモトアヤコ扮する「ギアゴースト」の島津裕は、優れたエンジニアであることの証でしょう。

↓↓↓こちらが、部品点数の少なさを象徴する実例。軽量化もすごいことだが、一体型成型にして、部品点数と溶接点数を削減する新工法“STAF”がすごい!(住友重機械工業)

私の経験した実話

40年ほど昔になりますが、現実の油圧部品のメーカーの部品製造を、当社は請け負っていました。大型のバルブ本体のケースでしたが、部品全体をひとまとめにするもので、材料は一括の鍛造品でした。

その大きさから、油圧の油が通る穴をあけるのが困難で、苦労したことを覚えています。ロングドリルを使って両サイドから掘り進むしかないのですが、その穴が真っすぐにならず、ずれてしまうのです。

キリコの排出がうまくいかなかったり、オイルをかけながらの穴あけ作業なのですが、オイルがドリルの刃先まで十分には行き渡らなかったりなどでした。コンピュータ制御のマシニングセンターでの作業でありましたが、手作業での熟練工のアドバイスをもらいながらのプログラミング変更の連続でした。

そうした製造技術開発を並行して行いながら、企画・設計を行っていくのです。その発想と、技術的背景を考えると、イモトアヤコさんの演技は、私にはオーバーとは言えません。

ドラマのストーリーとしては「性能を押さえて耐久性を上げた」ことがメインでしょうが、私が苦労したような製造技術開発の成果も含めて考えられる人には、優れた製品であるのがわかるでしょう。

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