モータースポーツ 日記

いま人気のトヨタ・GRヤリスはスポーツカーなのか?? スポーツカーの分類から考えてみる。

トヨタ・ヤリス(旧ヴィッツ)の販売好調が止まらない。2020年9月、10月には新車販売台数の1位となり人気を博している。その中で、特にGRヤリスはレース経験(世界ラリー選手権)から得られた性能が盛り込まれていて、トヨタの本気度を感じられるクルマなのだ。つまり、日本車の中でいま一番ホットなスポーツカーかもしれない。さて、スポーツカーっていったい何なのだろう??そこから紐解いていこう!!



GRヤリスは、ラリー専用車!

クルマ遍歴が長い筆者だが、日本でGRヤリスのようなラリー専用車両が出来るとは思わなかった。そして、それは目を見張る性能だ。

トヨタ・GRヤリスは最高出力200kW(272PS)、最大トルク370Nm(37.7kgfm)で低回転からすごいトルクだ。0-100km/hは5.2秒と発表されている。(G16E-GTS型エンジンを搭載)

ニュルブルクリンクでFF最速を争っているホンダ・シビック タイプRやメガーヌ ルノースポールよりもコンマ5秒ほど速くなっているという記録もある。変速で言えば2速までの時間だ。

GRヤリスは2020年1月に予約開始になると、すぐに2000台の予約が入ったという。すごい人気だ。

現在、GRヤリスの納車待ちは、3~4カ月待ちになると言われる。

出典:トヨタ公式サイト

 

スポーツカーの種類

ここでちょっと、「スポーツカー」とはなんぞや?ということに触れておく。

「ライトウエイトスポーツ」と「GT」

↓↓↓マツダ・ロードスターは、ライトウェイトスポーツの部類だ。

まず、スポーツカーを知るために、例えばトヨタ・GRヤリスとマツダ・ロードスターを比べてみよう

エンジンを比べてみる。

【トヨタ・GRヤリスのエンジン】

エンジン形式: 1.6リッター直列3気筒 DOHC 12バルブ、ターボエンジン

最高出力: 272PS(200kW)/6500rpm

最大トルク: 370N・m(37.7kgf・m)/3000-4600rpm

 

【マツダ・ロードスターのエンジン】

エンジン形式: 1.5リッター直4DOHC14バルブ、NAエンジン

最高出力: 132PS(97kW)/7,000rpm

最大トルク: 152N・m(15.5kgf)/4,500rpm

 

上記を比較してわかる通り、トヨタ・GRヤリスはターボエンジンで、NA(自然吸気)エンジンであるマツダ・ロードスターの2倍の最高出力を出している。つまり、GRヤリスの方が動力性能には格段に良いということが分かる。

でも、マツダ・ロードスターはスポーツカーと呼ばれている。(最近では”スポーツカーではない”という人もいるが、純然たるスポーツカーであることは車の歴史を紐解けばわかる!)

これはいったいなぜなのか?

スポーツカーを定義するとき、色々な区分けがされているが、最もシンプルに「ライトウエイトスポーツ」と「GT」に区分すると、その特徴が掴めてくる。

 

ライトウェイトスポーツとは?

ライトウェイトスポーツがスポーツカーだと言われる理由を説明しておこう。

【ライトウエイトスポーツ】は、イギリスで発祥したと言われている。軽量なボディーでエンジン出力はそれほどでもなく、ワインディングロードを俊敏に駆け抜ける。この種のクルマで重要視されるのはエンジンのピックアップの良さだ。

もっと説明すれば、ワイディングロード(コーナーが多い)を速く走れるということは、コーナリングの立ち上がりが速いことが重要。だから、エンジンのピックアップが良ければ、速く加速できるということになる。

マツダ・ロードスターは、ライトウェイトスポーツの部類のクルマなのだ。

※今ではピックアップというとピックアップトラックと混同されるかもしれないが、この場合はPick Up Speedのこと。エンジンの回転数がどれだけ早く上がるか?つまり、どれだけ速く加速できるか?に関わる。

 

GTとは?

↓↓↓日産・スカイライン(2017)。スカイラインは伝統的に「GT」だ。

その一方、【GT】は、「高速で長距離を走り切る快適性を備えたクルマ」である。GTの由来は、イタリア語のグランツーリスモ(英語ではグランド・ツーリング)からきている。

つまり、グランド=大きい、ツーリング=遠出・長距離運転。だから、快適性を求めて装備品が多く、豪華仕様で車重が重いクルマもある。ボディスタイルは空気抵抗が少ない流線形のクルマもあるが、旅行に便利なように意外にセダンタイプやワゴンタイムも多かった。

日本でも、昔は日産・スカイラインGT、いすゞ・ベレットGT、トヨタ・1600GT、2000GTと、車名に積極的に取り入れられた。

この部類のクルマは、イタリア、ドイツのメーカーが熱心に取り組んできた。というのも、イタリアには太陽道路(アウトストラーダ )、ドイツにはアウトバーンという高速道路が早くから整備されたから。「高速道路をドライブして遠くの地まで長距離運転!」に合った車を作り出そうとしていたのだ。

だから、イタリアのフェラーリも、ドイツのポルシェもGTと言えるだろう。

と見てくると、GTというのはスポーツカーというよりも、ゆったりと長距離を走るというイメージもある。たまには、ハイスピードで走るかもしれないが、ドイツのアウトバーンは制限なしだけど、イタリアは事実上130km/hまでしか出せない。

 

ということで、ライトウエイトスポーツは、小さなエンジンで軽量なクルマを機敏に走らせることから、小さなエンジンでも最高出力を求めるようになっていた。それで、小さな排気量で大きな出力を得るには、昔は「高回転型エンジン」にするしかなかった

 

高回転型エンジンとは?

ここで、かのアイルトン・セナの逸話をご紹介しよう。「音速の貴公子」と言われた天才F1レーサーのことだ。

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エンジンを「1万回転で回してみろ」と言ったのは、ホンダの創業者、本田宗一郎だった。F1でホンダの第2期黄金時代(1980年代)のことだ。マクラーレンホンダで長くパイロットを務めたアイルトン・セナは、サーキットを1周する間のエンジン回転数は平均すると200回転ほど他のドライバーよりもエンジン回転数が高かったと言われる。

いわゆる「セナ足」と呼ばれた、アイルトンセナ独自の天才的なアクセルの踏み方だった。これによりコンマ数秒のラップタイムを稼いでいたことが知られている。セナは、高回転型エンジンを使いこなす名手であったのだ。

ホンダのエンジンは、四輪車を造り始めた時代、ほとんど「高回転型エンジン」だった。S500~S800N3601300など、そして現代のクルマでは生産は中止されているが、ホンダ・S2000が代表格であろう。

ホンダ・S2000は、2リッター直列4気筒DOHC VTECエンジンで、最高出力250馬力を8300rpmで発揮する。

ターボチャージャー

ターボ車にも少々触れておこう。

ターボチャージャーが開発されたのは、太平洋戦争中のボーイング・B29であった。つまり、飛行機だ。このため防空する日本の戦闘機には、ゼロ戦、雷電、紫電改、疾風などそうそうたる機体が揃っていたのだが、スーパーチャージャーでは1万メートルの上空では「アップ、アップ」してしまうのが事実だった。戦時中の苦い記憶の1つとして残った。

1960年代になると、日本車の本格的量産体制が始まる。1,500ccターボと3,000ccNAから選ぶことが出来た時代もあったF1だが、自家用車でターボが実用になったのは意外と最近で、ターボ車が市販されるようになったのは1970年代からだ。

1980年代に日産・ブルーバードSSSターボなどがあったが、いわゆる「ターボラグ」が大きく嫌われてきたのと、燃費が悪く石油ショック以後はあまり使われなかった。

でも、2000年代に入ると再び燃費を制限する時代となり「ダウンサイジングターボ」と言われる、排気量を制限して実用的な出力を得ようとする試みから、むしろ燃費をよくする手法としてターボが見直されてきている

だから、GRヤリスのような小型車にも、積極的にターボエンジンが搭載されるようになっている。

 

トヨタ・GRヤリスとは何者か?

では、本題に戻ろう。

さて、トヨタ・GRヤリスは、スポーツカーとしてはどの分類に属するのだろう?

その特性から言って、基本的には「ライトウエイトスポーツ」と言えると思う。

でも、最初から世界ラリー選手権(WRC)の資格を得るために造られたクルマであり、なおかつ公道を走れる実用車とすることが出来ていることが、日本車としては初めてだということを覚えておきたい。

ラリーを争うスポーツカーということになるが、これもスポーツカーの一種であると新たに日本人は知った。

というのも、レースが根付いているヨーロッパと比べると、日本では自動車レースの歴史も文化も浅い。特に最近は、レースに強い車が市販車で売れるクルマにならないことから、レースとの関連付けを求めることが薄らいでいる。

関連:【モータースポーツ】なんでこんなに違う? アメリカとヨーロッパ(1)

GRヤリスの何が珍しいのか??

でも、ラリーで活躍してきた日本車はこれまでもあったじゃないか!という人もいるだろう。日産・ブルーバードSSS(1960年代)、スバル・レオーネ、スバル。インプレッサ(1990年代)、三菱・パジェロ(パリダカラリー:1980~2000年代)などがそうだ。だが、これら過去のラリー車はみな市販車をチューニングしていた。

何が言いたいかというと、トヨタ・GRヤリスのように、初めからラリー出場を前提にしてホモロゲーションをクリアするように量産販売されたクルマは、日本にはないということ。

インプレッサのように街乗り車をチューニングしてラリーに勝てるのだから、元のクルマが優秀と言えば確かにそうなのだが、最初からレースに強い車を計画している形をとったトヨタ・GRヤリスが、現代では異端であると言えるのだ。

 

トヨタ・GRヤリスは低回転型エンジン

そこで、トヨタ・GRヤリスのエンジンスペックを見直してみよう。

【トヨタ・GRヤリスのエンジン】

エンジン形式: 1.6リッター直列3気筒 DOHC 12バルブ、ターボエンジン

最高出力: 272PS(200kW)/6500rpm

最大トルク: 370N・m(37.7kgf・m)/3000-4600rpm

紛れもなく低回転領域から強大なトルクを発生するエンジンで、とても「高回転型エンジン」とは言えない。

マツダ・ロードスターの【1.5リッター直4DOHC14バルブ、NAエンジン:「最高出力132PS(97kW)/7,000rpm、最大トルク152N・m(15.5kgf)/4,500rpm」】と比較すれば、最高出力の発生回転数が低い。前述のホンダ・S2000の「最高出力250馬力を8300rpmで発揮」と比べると雲泥の差だ。

これは、トヨタ・GRヤリスの方が運転しやすいクルマとも言える。逆に、マツダ・ロードスターやホンダ・S2000は、速く走るには高回転を保つ必要があり、運転テクニックが必要とも言える。

でも、トヨタ・GRヤリスも問題がないわけではない。

トヨタ・GRヤリスのエンジンは、1.6リッターで3気筒である。マツダ・ロードスターは1.5リッターで4気筒だ。3気筒は気筒数が少ない分、エンジンフリクション(機械的摩擦損失)なども少なく熱効率を上げやすく、部品点数も少ない。一方、小排気量なので、高出力を生み出すためターボチャージャーで吸入量を増やしている。そのためアクセルを踏み込んでから回転が上がり、高出力を発生するまでに若干のタイムラグが生じることとなる。いわゆるターボラグである。

そのため、レースなどではアクセルを踏み込むタイミングを多少早めるなど微妙なテクニックを必要とする。しかし、低回転トルクが強いので、全体としてはかなりの動力性能を示すこととなる。現代における高性能で燃費の良いエンジンの特徴だ。

 

高回転型エンジンは絶滅危惧種か?

ホンダ・S2000が生産中止(2009年6月)になって久しい。

その後、高回転型エンジンを積んだスポーツカーを見かけない(新車発売されない)。その理由は、低回転トルクの大きなエンジンの方が特別な運転テクニックを必要としないから運転しやすいため好まれるようになっているからだ。

ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)も同様だ。

「わざわざ運転テクニックを駆使して、高回転を維持する」ことが日常生活にとってはムダなこととなりつつあるのだろう。燃費も良くスムーズで静かで、驚愕の動力性能を示す低回転型パワープラントが求められるのは必然だ。

最高速度も、実用域では時速200kmなんていらないし。これまで最高速度を争ってきたのは、「高回転型エンジンを前提」とすれば、最高回転数の伸びが低回転領域での余裕につながる側面があったからだ。しかし、もはやモーターのアシストを受ければ5,000回転もいらないのである。

 

それでも「高回転型エンジンがいい」

それでもなお、EVとエンジン車を乗り比べたとき、エンジン車の回転の伸びがどれほど運転の爽快感になっているのかが分かってくる!

たしかに、トヨタ・GRヤリスも「エンジン車」であるけど、決して高回転型エンジンではない。低回転でターボラグは若干あるが太いトルクを発生する、ターボチャージエンジンだ。

これが、今の高性能エンジンの姿なのだろう。

また、トヨタにはルマン24時間レース用に開発してきたHVパワープラントがある。これが近い将来、実用車の高性能パワープラントの理想形となっていくのだろう。

 

とわかっていてもなお、高回転を保つことを目指して運転テクニックを追い求めることは、何よりもクルマの面白さを感じさせてくれる。「ライトウエイトスポーツ」万歳!



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