社会制度とトップの資質~「人はみな平等」という精神を忘れてはならない。「能力ない者は価値がない」?「貧困は怠慢」?

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今回のテーマは、社会生活の中では永遠のテーマと言えるでしょうか。さらに、不況のときには、どのようなトップが求められているのでしょうか。



この記事は、2009年3月27日にメールマガジン「集客の達人」に掲載されたものです。

こんな社会制度いいの?公的資金をボーナス支給したAIG

アメリカで、AIGのボーナス支給が問題視されました。実質的倒産状態となり、公的資金を投入されていながら、その過ちを犯した当人たちに高額のボーナスが支給される事態は異常としかいえません。
さらに、アメリカ自動車産業ビック3と言われた企業のトップが、公的支援をお願いに来る際に自家用機でやってくるのは、どのような心理状態なのか疑ってみるしかありません。

AIGボーナスベイビーとは?

2008年10月7日、米下院で開かれた公聴会の席上で、AIGグループの保険子会社であるAIGアメリカン・ゼネラル社の幹部が、公的資金の投入による救済が決定した一週間後の9月22日から30日にかけてカリフォルニア州南部オレンジ郡の高級リゾート地に関係者を集め、総額44万ドル(約4500万円)の「会合」を繰り広げていたことが判明し、米下院のイライジャ・カニングス議員は「米国民が救済資金を出すのを横目に、マッサージを受け、マニキュアを塗っていたのか」と批判した。この件に関してはホワイトハウス広報官も「卑しむべき行為」と異例のコメントを行う事態となり、当初AIG側は「保険業界では常識的なことである」と正当性を主張していたものの、最終的には「もし開催を知っていれば中止させた」と弁明に追い込まれた

2009年3月、AIGが幹部社員に対して総計1億6500万ドル(約162億円)にもわたるボーナスを支給すると報じられた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ボーナスを支給される幹部は400人。3月13日に支払われたボーナスは、400人に対し1億6500万ドル(約160億円)。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ司法長官が17日に公表した結果によると、計73人が各100万ドル(約9800万円)超を支給され、そのうち11人はすでに退社しているという。支給額200万ドル超が22人おり、最高額は640万ドルである。これに対してバラク・オバマアメリカ大統領は「あらゆる手段を駆使してこれを阻止する」と宣言しており、アメリカ議会にて、国税である所得税においてボーナスの90%(地方税は10%相当であるから事実上は100%)を課税する法案が下院で可決され、上院で審議されている。上院のグラスリー議員は「日本の経営者にならって、頭を下げ謝罪して辞任するか、もしくは自殺するかを選んで欲しい。そうすれば私の気持ちは少しは晴れる」という発言を行い物議をかもした。一方、AIG側は「ボーナス支給は危機前の契約で決定されたもので、支払わないと法的責任が生じる」と弁明したが、社員の一部には「賞与返還要求は脅迫も同じ。脅迫に応じる道義的責任はない。」と居直り、逆に「脅迫」に反抗して法的処置を模索する動きまである米メディアは高額ボーナスを受け取ったこれら幹部・元幹部を「AIGボーナスベイビー(bonus baby)」と揶揄している

 

このような企業トップが、なぜ世界のエリートと言われる人々の中に存在しているのか、理解に苦しむばかりです。これが、企業のトップの真の姿なのでしょうか?

 

↓↓↓こちらは、カンブリア宮殿でも紹介された平成建設のお話。日頃、大工や工員など作業者を格下とみているエリート様に推薦の書。実践の「組織力」っていうのはどんなものか? 良い社会(企業)とは「ヒト」の「信用」に基づかなければ、後世に引き継いでいけないもの。

 

「資本主義経済」と「人道主義・民主主義」

利益を追求するための企業ですので、儲けるための能力が必要となります。AIGの事件を見ていると、資本主義経済の世界では「人間性」なるものは必要とされない、むしろ、その逆を要求されている事実を認めなければなりません。

社員にとって、生活をするには何よりも利益を上げなければ話にならず、優先順位の一番は「稼げる能力」になってしまいます。それも際限なく…。これを「モラルの欠如」と言って理解するだけでは、済まされないのでしょう。

しかし一方、人間の歴史で、弱肉強食という動物としての本能を乗り越え、人道主義、民主主義を社会制度化する努力が営々と続けられてきており、われわれ現代人は多くの恩恵を受けるまでになってきました

女性の社会進出についても、平和な時代でなければ(戦国時代のように)男性の肉体的強靭さが支配力を持つ状態となり、女性も平等な権利を確保できない可能性が増えてしまうのです。社会制度が進歩しなければ、トップとは独裁者を意味してしまいます。

 

多くのトップが理解できていないこと

その社会制度を維持進歩させるには、人々が社会制度に関心がなければなりません。それには、政治に興味を待たなければ、社会制度をコントロールすることは出来ないのです。

現在の日本で労働組合が衰退したのは、労働者が関心を持たなくなったためであります。失業者などは「怠け者」「無能力者」がなるものと思い込んできた、経済高度成長期の幻想を捨てなければ、現在の「派遣切り」を理解することは出来ません。

社会制度とは、人間の能力の差を吸収できていなければならない概念なのです。

これを理解できているトップは極少数であります。

能力の差は、「人間の価値」の差ではない!

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能力の差は「人間の価値の差ではない」。このことが、社会的弱者を支援する制度を作り上げてきたはずです。

「能力のないものは価値がないんですよ」と公言する大学講師に出会いました。彼はエリートで、大手企業の研究部門のトップでありました。彼は「派遣切りにあった者など支援する必要はない」と言ってはばかりません。

しかし、「能力のない者が、底辺に居るのだ」とするのなら、老人になり、力を落としたものは、能力の無い者です。切り捨てなければならない存在になってしまいます。それで、よいのでしょうか?

現代の企業トップの誤りは、「人間の価値」を前提としていないところです。企業活動がこの基本を見据えていないため、「モラルの欠如」を引き起こしてしまうのです。

しかし、人間の歴史は、本当は「人間の価値を見直す」ことに終始していると言えます。民主主義もそうです。

より良い社会制度を作り上げるには、「人はみな平等」の概念を紐解かねばなりません。

この記事は、2009年3月27日にメールマガジン「集客の達人」に掲載されたものです。

バラク・オバマ米大統領、任期最後の演説(抜粋)

私は、普通の人たちが深く関わり、一致して要求することで、物事は「チェンジ」することができるのだということを学びました。

みなさんの大統領として8年間の勤めを果たした後でも、まだ私はそう確信しています。しかも、それは私の信念というだけではなく、アメリカの思想の真髄でもあるのです。自治政治という大胆な試みです。それは、みな平等に創造されたという確信です。創造者から、奪うことのできない、命、自由、幸福の探求といった確かな権利を与えられているのです。(2017.1.10、シカゴ)

➡全文は「Logmi:オバマ米大統領任期最後の演説

 

21世紀の不平等

↓↓↓こちらは、トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」に追随するかごとくの『21世紀の不平等』。格差や配分の問題を真の社会問題ととらえていない経済学者の中では異質かもしれない著者、アンソニー・B・アトキンソン。しかし彼は、 結果の「不」平等が機会の「不」平等につながりかねないこと、現状の格差は社会的正義という観点から許容できないことなどを訴える。トマ・ピケティ氏も推薦している。こういったピュアな学者や専門家が多くの支持を得て、社会に役立てることを願いたい…。