【テスラは何を間違えたのか(1)】ファイナンスは経営のすべてではない 天才は必要なし

日記

ヘッジファンド運用会社キニコス・アソシエーツのジム・チャノス社長がインタビューで、米電気自動車(EV)大手テスラは、常に空売り投資家の標的となり、「袋小路に向かっている」と述べた、とニュース。多くのテスラ幹部が同社を今年辞めたという。



ファイナンスは経営のすべてではない

”ラインオフ後の修正が9割”がすべてを語る

米のテスラ・モータースが窮地になっている。現れている現象では、まずキャッシュフローが行き詰ってきた。投資家の目線で見ると、ヘッジファンド運用会社キニコス・アソシエーツのジム・チャノス社長の言葉が気になるようだが、それよりも確実なのは、「不良が多い」ことだ。それも「ラインオフ後の修正が9割」と聞いたら「自動車製造のビジネスモデルは成り立たない」との知識を持っているべきだ。投資家は極めてビジネスモデルに知識がない。そのため、うわさ話に近い情報で動いてしまう。

テスラ窮地の原因は、「モデル3」の生産が軌道に乗らないことだ。生産がうまくいかない原因は、部品製作・組み立て工程での不良が多く、ラインオフ後に修正の必要な車が9割であることだ。

さらに、この原因は、自動車製造技術では基本的な「スポット溶接がうまくいかない」ことだとの不確実な情報もある。どちらにしても「品質管理」がうまく機能していないことが原因であることは確かなようだ。

財務数字はビジネスモデルの健康度を示す指標だが、ともかく「車を造る技術が正常であるのか?」が直接的にわかる財務データはない。なにがしかの指標になる財務データを読み取れなければ経営はできないが、それにはビジネスモデルを製造技術のレベルまで知っている必要がある。

これは、財務データだけを見ている経営者では、自社の製品について「品質保証」をお客様にできるわけがないことを示している。

ビジネスモデルから遠い経営手法

2017年は、神戸製鋼、日産自動車、スバルなど自動車製造にかかわる企業の品質偽装が表面化していた。自動車の品質は命に係わる問題で対策が必要だ。しかし、原因が定かにならないのでは「再発防止」はできない。これらの企業の経営者の体質を見ると、「ファイナンスを見ていれば経営できる」とする考え方が強いようだ。

最近の日本の経営手法はアメリカの影響が強く、「株価」「配当」「自社株買い」など「投資家の要請にこたえることが正義」と信じて疑わないファンド体質だ。財務諸表と財務係数を見て判断する体質が強い。勢い、経営者は「ノルマ」を部下に課すこと以外、「自分のタスク」とは認知しない。逆に言えば、「ノルマ」さえ部下に課していれば、安心してしまっている。厳密にいえば、「彼らは自社のビジネスモデルに関与していない」ことになるのだが、それを自覚できないのが問題だ。

 

ソフト企業(IT)は一人の天才でも成り立つ

一方で、ソフト産業(IT産業)では「一人の天才がすべてを造る」と言えなくもない。スティーブ・ジョブズなどが有名であろう。テスラのCEOイーロン・マスク氏もIT産業出身だ。日本でもソフト産業が産声を上げたころ、やはり天才に頼るところが強かった。

↓↓↓”通称・高橋名人”。日本のファミコンブームを担って、ハドソンを成長させた。

パソコンにOSが載せられるようになったころ、まず進んだのがワープロの普及だった。BASICインタプリタでは使い物にならず、パソコンは「おもちゃ」に過ぎなかった。実用に供せる分野が、OSの上で動くワープロだった。

日本では、そのワープロにおいて「太郎(ジャストシステム)」「松(管理工学研究所)」がライバルだった。

「太郎」は後に「一太郎」に発展して一時代を築くが、「松」は「新松」に発展するが消えてしまった。その後、OSにバンドルするという姑息な手段を使ったマイクロソフト「MSワード」の普及で、両者は消えてしまったのだが、実際には「松」は一人の天才が造っていると言われていた。確かにプログラムのコーディングは、「松」が圧倒的に効率的で小さかった。

参考:「松 — 事実上最初のパソコン用日本語ワープロソフト」(ITプロより)

商売としてみてみると、「一太郎」がコピーを無制限に許しており、逆に制限していた「新松」に勝った。さらにその上を行く、「MS(Microsoft)ワード」はパソコンにバンドルして主流としてふるまってしまい、「一太郎」を駆逐した。実際のところは、当初、機能面では「MSワード」が明らかに劣っていた。現在でもフロント・エンド・プロセッサーとしては、「一太郎」のATOKが優れているようだ。

やはり、日本語についてアメリカのMSワードが優れているわけもなかった。

↓↓↓今でも細々と続いている「一太郎」。でも好きだ!


つまり、ソフト産業は平面的で商売が成り立つが、製造業はそうはいかない。ファイナンスに強くても、それも経営に必要だが、それだけで商売になると考えるのは思慮がなさすぎる。

それは、「品質保証」」の正体を知らずにいるからだ。イーロン・マスク氏には見えないのだろう。→テスラは何を間違えたのか(2)につづく

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