S660、NSX、シビック生産終了なんて許せない!?ホンダは何を間違ったか?

ホンダ

出たばっかりのホンダ・S660はファイナルバージョンで生産終了。それにシビックタイプRNSXが生産終了…という。それに、今年2021年限りでF1撤退…。 F1を象徴するスポーツカーのホンダだったのに、「軽のホンダ」を邁進するホンダ。雑誌「ベストカー」も読んだけど、『ホンダ、ほんとに大丈夫か???』と言いたい。これは、マーケティングの話です。



出典:雑誌ベストカー4/26号

 

売れ筋ばかり追いかけたツケ

今や「ホンダは軽自動車の会社」と若者の間では定着してしまうほど、ホンダの車には商品ラインナップの幅がなくなってしまった。

データを見ても、「2019年度にホンダが販売した新車の52.6%が軽自動車」が文字通り示しているのは、まさに【ポスレジのバカ】だ。

売れ筋を追いかけてばかりいると、どうなるか?

【ポスレジのバカ】とは、ポスレジデータ(売れ筋)を信ずるあまり売れ筋ばかりを追いかけていると市場はやがて縮小してしまうこと言っていて、これは私が名付けた。一応私は実践派のマーケティング専門家なので、PHP研究所からの依頼で出版した私の本にもこのことは載っている。

この【ポスレジのバカ】現象については、これがホントにじり貧になっていくものなのだ。いい例がデパート業界だ。一時期は、男性諸君はデパートに行って女性物中心でブランド品しか売ってなくて寄り付かなくなっていたと思うが、これがターゲットを絞り込みすぎていた現象だ。それ以前は、屋上には遊園地があったりして市民の味方として百貨店は大成してきたはずなのに、バブル期には逆になっていた。ところが、バブル崩壊してみると、女性向けの高級品は売れなくなり、郊外スーパーや量販店に客を取られたが、それでもデパートはその路線を維持し続けた。そして今は?場所貸しのテナント業界になりつつある。自分の商売、つまりビジネスモデルを放棄した状態に近いで、市場を自ら縮小してしまった例だ。

出典:ホンダ公式サイトーしビックタイプR

さて話を戻すと…。

たしかに、ホンダの技術でN-ワゴン、N-BOXなどの軽4輪はいいクルマになった。日本有数の技術を持ってるからだ。だが、最近のニュースでは、S660やシビックTypeRなどスポーツカーの生産中止を発表している。スポーツカテゴリーの車種は切り捨てていくのだろうか? さらに、ビジネス上でよく言われる「選択と集中」を加速しているのだろうが、「選択と集中」の使う時期を間違っていると思う。

ホンダはいま、ユーザーの選択肢を無くして自動車市場を狭めてしまっているのは、ホンダ自身なのだ。これは、幅広いお客様に受け入れてもらう「商売の基本」からはかけ離れている

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トヨタは自ら市場を造ったから、売れた!

それとは逆に、トヨタは快進撃を遂げている。様々な要因はあれども、1つはトヨタ自ら、いや社長自らと言った方がいいのかもしれないが、積極的に【市場創造】したからだ。

創業家の出である豊田章男社長は、昭和の全盛期から比較すると衰退していると思われたモータースポーツを自ら推進し続け、「クルマは走ることを楽しむための商品」であることをユーザーに再認識させてくれている。

まさに、【ポスレジデータには現れない潜在市場の発掘】に成功している。

出典:トヨタ公式サイトーGRヤリス

そのおかげで、世界ラリー選手権(WRCレース)で鍛え上げられたヤリスが売れに売れている。2020年度(2020年4月~2021年3月)の通称名別新車販売台数を見れば、3年連続トップだったホンダ・N-BOX(19万7900台)をトヨタ・ヤリス(20万2652台)は抜いてしまったのだ

ここでよく考えてほしいのが、ヤリスが今売れ筋の軽4輪でもSUVでもない、廃れ行くと思われたスポーツモデルであることだ。それなのにバカ売れした。

ひょっとしてこれは? ホンダの創業者・本田宗一郎氏が言っていた【レースは”走る実験室”】をトヨタが地で行っている?と思わせるほどの結果だ。

トヨタがスポーツ車の市場を自ら創造したのだ。

本家本元のホンダはどうした!?と言いたい。

やはり、売り手が買い手市場に積極的に働きかけることが大事なのだということを思い知らされる。経済成長期ではない時代、「待ちの姿勢」ではダメなんだ。「選択と集中」は縮小期に使う手法ではないことの証明でもある。

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では、なぜホンダはこのような状況に陥ってしまった?

ホンダをダメにした根本は、グローバル経営思想

グローバル経営の思想とは、経営者が金融中心の短期志向であることだ。(雇われ経営者のため任期の間だけ数字を上げようとするから、長期的な成長が視野に入らない)そのため、その時点での帳票上の数字からしか経営判断をしないことが最大の欠点だ。

これだと、製造業の要である「生産の現場」や「商品の現場である市場」を把握することができずにおろそかにしてしまうからだ。

グローバル企業はとかく株主だけに目を向けがちだが、本来、企業のステークホルダーは株主だけでなく、経営者、従業員、顧客、取引先すべてだ。

今年(2021年)の大河ドラマの主人公である、渋沢栄一も唱えている「合本主義」に通じるものだ。

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製造業なのに、生産現場の効率化を図らなかったツケ

ホンダは、経営から見て本来、トヨタのようにプラットフォームの共通化や部品の共通化をしなければならなかった。製造業のビジネスモデルは、商品の売れ筋ではなく、生産方式にあるからだ。このことは、建機の部品工場を経営していた筆者が身に染みてわかっている。

ホンダはそれができずに、生産では車種ごとにシャシーや部品を造ることになってしまいコストがかかっている。逆に、トヨタのTNGAのすごいところは、車種が違っても同じ車を作れるように効率化が図られている。

その共通化は、設計から、そしてサプライヤーまでも巻き込んでいると、莫大な資金効率の良さを産むことになるが、ホンダはそれに気が付いていなかったのだろうか?

また、トヨタはできるだけ内製に基本を置いている(時流に逆行していると批判するコンサルもいる)が、ホンダは外注にシフトしていたため、ホンダ自身の車を造っているのに、サプライヤー(外注)に対してバイヤー目線のみで本気度が足りなくなっていたのではないだろうか?支配しようとするだけでは、企業は成長しない。

トヨタでは外注する際も、自分たちで造ったらどれくらいのコストでできるかを必ず確認している。丸投げは絶対しない。そこにムダなコストが発生するからだ。

ここで頭のいい人は、関連した事例にピンとくるだろう。行政の丸投げ体制のことだ。例えば、最近では「コロナ対策のCOCOAアプリ」のことが記憶に新しい。業務委託といっても、行政の場合は丸投げしていることが多く、不具合についても確認が遅れて数カ月も放置されていた。これをみれば、そこでどれだけのコストがムダになっているかがわかるだろう。私たちの税金がムダになっているのだ。

企業コンサルタントによっては、外注して分業することでコスト削減できると謳う人も大勢いるが、それは発注する側が高い管理能力を有していなければできないことだ。たしかにきっちりとそれができればいいのだが、それができていない場合はコンサルの言うことを鵜呑みにすると大変なことになる。高い管理力がないと丸投げと同じで、結局は管理不足で不良品を垂れ流してしまい、修正に追われてコスト高に陥る

残念だが実は、ホンダ・新型フィットでも同じようなことが起こっている。

ホンダはF1を長年やってきたが、2021年限りで撤退することになっている。創業者本田宗一郎の言った通り、今後、F1で培った技術がホンダのクルマに最大限生かされていくことを、半世紀にわたるホンダファンの一人として、クルマファンの一人として望んでいる。

 

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