ホンダジェット(Honda Jet)には、マニアでなくとも涙が出るほど感動する姿が見て取れる。写真を見て第一印象で、「びっくり」。ホンダ自社開発のジェットエンジンと聞いて、「びっくり」。営業成績クラストップと聞いて、また「びっくり」。そして、ホンダの創業期の姿を思い浮かべて感動する。本田宗一郎は、開発が始まったことを終生、告げられていなかったとのことだ。開発が始まったら、「隠居してしまったのに戻ってきてうるさいだろう」と考えたそうだ。「オヤジ(宗一郎)」を慕う社員の思いが込められた開発ストーリーである。
↓↓↓プロゴルファー・松山英樹選手も乗っている!
PGA Tour’s Hideki Matsuyama arrives in Greensboro ahead of the @WyndhamChamp on a #HondaJet following the @PGAChampionship in St. Louis. #PGATour #WyndhamChamp
プロゴルファーの松山英樹選手がHondaJetに乗り、ウィンダム選手権が行われるグリーンズボロに到着されました。#PGAツアー pic.twitter.com/kXaseRjdIn
— Honda Aircraft Co. (@hondajet) 2018年8月13日
日本人が手掛けるデザインは、優雅で繊細!
日本人が手掛ける飛行機のデザインは、いつも優雅で繊細なのだ。その代表格がゼロ戦だった。
ホンダジェットも、一目見て「日本人」を感じさせる。YS-11(日本初の国産旅客機)のエンジンナセルも微妙なカーブを描いている。ホンダジェットのエンジンナセル周りの造形も微妙にできている。アメリカ人なら真ん丸にしてしまうところ、風洞実験により造形を考えたのであろう。
↓↓↓YS-11(日本航空機製造)。私は若いころ、日本航空機製造に所属していた。(画像は拝借させていただきましたm(__)m)
1986年に、藤野道格氏(1984年本田技研工業入社)をチームリーダーとして、航空開発に乗り出した。つまり、ホンダの創業者・本田宗一郎氏が1991年になくなる前に始まったのだ。そして、2006年、ホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Corporation)が、藤野氏をCEOとして設立され開発、生産、販売を一手に手掛ける事業となっている。
ホンダジェットの「びっくり」:その1(美しいプロポーションとつるつるのお肌)
エンジンナセルが、翼の上に
「エンジンナセルが翼の上にある」、これは出来ることなら取りたくない配置だ。
↓↓↓ご覧のように、エンジンが翼に載っている!!
翼の上は空気の流れがスムーズであればあるほど、揚力が生じ、安定性も増すのだ。だから、通常はジャンボのように、翼の下にぶら下げる。
また、Honda Jetのように小型で、エンジンを翼の下に下げられない場合、リアジェットの名の通り、胴体後部に取り付ける(後ででてくるホンダジェットの競合機のように)。しかし、それでは小型飛行機の場合、客室にエンジンナセルの取り付け柱が通ることとなり、機内スペースが狭くなってしまう。そうすると、ビジネスジェットにとって商品価値がかなり下がってしまうのだ。
だから、ホンダジェットは翼の上にエンジンナセルを載せた。商業的に成功する大きなポイントの一つだ。
翼の断面形状は「層流翼」で、薄い
そして、翼の断面形状が「クラークY型」でなく、「層流翼」となっていることだ。
通常、「クラークY型」のほうが揚力は大きくなるが、抵抗が大きくなり、高速機には不向きなため、戦闘機などでは「層流翼」が採用されている。上の正面からの画像で、ホンダジェットの翼の厚みが少ないことが分かるはずだ。
ホンダジェットの最大速度は、商業機らしく巡行最大速度で表示されており782kmとなっている。この速度であると、運用高度13,106mになると音速に近く、「衝撃波」の発生を遅らせる工夫が必要なのだ。
この時、良く取られる対策が「後退翼」だが、その必要性まではないようだ。
フェラガモのハイヒールのイメージから得た、ノーズ形状
ホンダジェットのノーズの形状は、イタリアのファッションブランド「サルバトーレ・フェラガモのハイヒールからインスピレーションを得た」とされている。
どの様な効果で、境界層の空気の流れが剥がれないのかは分からない。
↓↓↓こちらは、サルバトーレ・フェラガモの腕時計。シンプルなデザインがビジネスでも活躍しそう。思ったより高くない?!
また、最近飛行機の翼の両先端が跳ね上がっている形状が一般的に採用されるようになってきたが、これは約7%程度燃費をよくすると言われている。ホンダはこの形状、ウイングレット(主翼端翼)を軽量に作るために、工作機械から作ったと聞いている。
その昔、レーシングスポーツカーの分野で「ウィングカー」と呼ばれた車があった。ルマン24時間レースなどで活躍したのだが、これは翼を裏返しにしたような形状にして、ダウンフォースを得ていたのだ。しかし、1999年メルセデス・ベンツのウィングカーが舞い上がって、コース外に飛び出す事故を起こして、危険性が指摘されて禁止となったことがある。
↓↓↓1999年「ル・マン24時間」でメルセデスが、見事に宙を舞う実際の映像!
翼は自然に揚力を生み出す形状だが、ひとたび逆から風を受けると、凧のように舞うこともあるのだ。
今年(2018年)復刻して発売になった「アルピーヌ A110」のように、自動車の底面も出来るだけ整流すると、揚力が発生せずスポイラーなどの部品を付けなくて済む。詳しい説明は自動車の記事で行うが、飛行機はこうした空力をはじめ、推力重量比など、機能的性能に関して、はるかに厳しく順応しないと商品力がないのだ。
つまり、ミニバンなどのように実用性能を向上させたいのは飛行機も自動車も同じなのだが、空を飛ぶ飛行機は、より「物理的性能」に重きを置かねばならないということなのだ。
ホンダジェットはその意味でも、創業者・本田宗一郎の志により近いのかもしれない。最近の若者には、ホンダはN-VANのイメージだが、ホンダジェットはそのイメージを変えてくれるかもしれない。
カーボン一体成型(つるつるお肌の素)
ホンダジェットの胴体は、カーボン複合材の一体成型とされている。カーボン複合材料は、軽くて丈夫な機体を作りやすい、また、接合部を少なくできる。腐食にも強く、乗客の居住性も格段に向上することができる。
↓↓↓よ~く見ると、リベット打ちの跡がない!! つるつるお肌!!
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このカーボン一体成型技術は、ボーイング・B787用に開発された技術と同じものだが、自動車の世界では、まだ採用する車は少ない。カーボンは軽量化するには最適だが、値段が高く、広く大衆車には使用はされていない。現在は、自動車では「ハイテン」」の使用が進められてきている。一部、ヨーロッパのメーカーでは補強材などとしてカーボン・ファイバー強化樹脂CFRPが部分的に使用されてきている。胴体丸ごとではBMW・i8、同じくBMW・i3に見られるだけだ。
↓↓↓BMW i8。
飛行機の世界では、エアバス・A380、ボーイング・B787など積極的に使用が進められようとしている。この分野では日本企業が先頭を走っているが、中国でB787を生産する時、その技術が盗まれないのかと疑念を抱いてしまう。
ホンダジェットは、この分野でも最新の製造法を取っているものと期待できる。軽量化では最先端技術だ。胴体丸ごと焼き固めるので巨大な窯が必要で、B787用設備と同じものであろうか?
どちらにしてもグラファイトの一体成型で、リベット止めされた外板の凸凹がなくなり、ホンダジェットの「お肌はつるつる」だ。
ホンダジェットの「びっくり」:その2(エンジン自社開発)
ジェットエンジンは「ホンダ製」であるとのこと!これは信じられなかった。
しかし、『ホンダ・HF120ターボジェットエンジンは、Hondaが開発したHF118をベースに、ゼネラル・エレクトリック社(GE)とHondaが共同で改良を加えた』と聞いて納得がいった。いくら何でも最初のエンジンを単独で開発できたとは思えない。飛行機のエンジンメーカーは、世界でもかなり限られている。イギリス・ロールスロイス、アメリカ・プラット&ホイットニー、アメリカ・ゼネラル・エレクトリック(GE)など、そのほかロシア、中国などで開発されているのに過ぎない。しかも、商業用高性能エンジンは、西側3社が主力と見ている。
何しろジェットエンジンの開発は、終戦間際ナチスドイツが先行し、Me262を実践配備して、その写真だけを手に入れた日本が試作機を作ることに成功して、ジェット時代が幕を開けた。戦後、初めて作った国産旅客機YS-11は、ロールスロイス社製のダート7であったと記憶する。
私は、このエンジンについては始動訓練を受けたことがある。日本航空機製造に所属していたからだ。現在動画配信されているホンダエンジンのように簡単に始動できず、何度も失敗した記憶がある。YS-11のエンジンは、ターボプロップと言ってジェットエンジンにプロペラを組み合わせた形態で、燃料消費量を節約できるとしていた。それから純粋なターボジェットではなく、プロペラの替わりに前面にファンを付けて燃費を改良したターボファン形式がとられるようになった。ホンダジェットも現代のターボファン形式をとり、燃費がかなり良いようだ。
↓↓↓軽量・コンパクト・高性能ターボファンエンジンHF120。なんと、最大直径53.8センチ。奥さんのウエストより細い!!
これは余談だが、戦闘機では以前より「アフターバーナー」と言って、純粋なターボジェットでも燃焼した排気の中にもたくさんの酸素が残っているため、排気にもう一度燃料を噴射し点火して推力を上げているものだ。離陸時や戦闘時、急加速・上昇など大推力が欲しい時に点火するものだ。推力はおおよそ2倍になるようで、超音速機には欠かせないものだ。その戦闘機用エンジンでもターボファン化が進み、燃費向上に寄与しているようだ。旅客機などのエンジンナセルが、新鋭機になるほど太くなり、ファンが大きくなって燃費を稼いでいることが分かる。
ホンダジェットのHF120はさほどファンは大きくないが、どの程度ファンの径は大きくできるものだか知りたいものだ。一般に、プロペラ機では音速を超えられないのは、回転するプロペラは機体の速度よりも先に音速に達してしまい、衝撃波でそれ以上推力を発生できなくなってしまうからだ。ファンも同様な問題を抱えているのだが、ターボジェットの圧縮タービンは超音速機でも機能している。
ホンダジェットの空気取り入れ口から見ると、ファンがかなり複雑な形状をしているようで、このあたりの空気力学の進歩も聞いてみたいものだ。
↓↓↓こちらは、G-SHOCKとホンダジェットのコラボ腕時計!デザインはHondaJetの設計・開発責任者である藤野道格氏本人が直接監修。機体を模った12時位置のインジケーター針がありますね~!
ホンダジェットの「びっくり」:その3(販売機数が世界一)
ホンダジェットは、小型ジェット機部門(定員10人未満)で世界トップとなったことが伝えられている。
↓↓↓どうですか!このムダのないスッキリとしたデザイン!セスナやエンブラエルと比べるとよくわかります。
ホンダジェット、出荷世界一 上期、生産能力を増強 https://t.co/tgaOraEUcc pic.twitter.com/Nxw3pOTEIK
— 産経ニュース (@Sankei_news) August 21, 2017
セスナ・サイテーションM2を抜いたのだから信じがたい。セスナの競合機は、ホンダジェットホンダジェットに極めて近い仕様でまともにぶつかっているはずだ。セスナとは、小型自家用機・ビジネスジェットの分野では”標準機”とも感じていたメーカーで、商品名で「セスナ」と言ったら小型自家用機を指していたぐらいだ。つまり、接着剤のことを「ボンド」と商品名で代弁できるのと同じ。その一部門ではあるが、ホンダジェットが抜き去ったことが感慨深い!
↓↓↓こちらは、ライバルのセスナ・サイテーションM2(citation m2)
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ホンダジェットは、2019年の納入機数は50機を超えると思われ、これから中国市場などにも進出していくようで、年間100機を超える受注を目指している。
今後、登場するであろう改良機は、ストレッチ化で定員を増やすのだろう。現在の機内では、4名が正規の座席で、補助席とコ・パイロット(Co Pilot)「副操縦士」席を合わせて6名の定員となっている。これを、胴体を縦に延ばすことで定員を増やすのだ。すると市場が広がり販売が伸びる可能性が広がる。その時には当然にエンジンの出力を上げていかねばならず、今後の開発が楽しみだ。
↓↓↓テニスの杉田祐一選手が、ホンダジェットに!座席後ろには、ちゃんとしたトイレも完備!
前述のとおり、競合機は「セスナ サイテーションM2」で強敵だ。ブラジルのエンブラエル フェノム100とも競合している。両機ともにリアジェット。つまり、後部胴体にエンジンを取り付けた形式で、ホンダが主翼上面にエンジンを取り付ける冒険をした理由が良く分かる。
これで、積載量では、ホンダジェットが優位に立っているのだ!
↓↓↓こちらは、ブラジルのエンブラエル・フェノム100(EMBRAER・Phenom100)。
これからも、ホンダジェットの話題に期待を持って注目しよう!!!
「HondaJetのこだわり」について詳しくは、公式サイトへ。
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↓↓↓ホンダジェットのコックピットに自分が乗ったつもりで!!!
5億5000万円のHondaJetに乗ってみた。プライベートジェットの新境地だ。 #プライベートジェット #NSX #ホンダジェット #ビジネスジェット #ホンダ https://t.co/m9khsBZqzb
— BusinessInsiderJapan (@BIJapan) 2017年9月21日
➡【ホンダ・ジェット出荷数で世界一】MRJはボーイングから国産機を取り戻す戦い(1)
➡【ホンダ・ジェット出荷数で世界一】MRJはボーイングから国産機を取り戻す戦い(2)