役員報酬の「世界標準」ってなに?! カルロス・ゴーンの報酬は適正か?

日記

日産自動車元会長カルロス・ゴーンの逮捕を受けて、話題になっているのは高額な役員報酬。公表されている年間額で約10憶円、退任後支払いの約10億円、インセンティブの意味合いの約8億円。それにどこまでかの線引きはともかく、公私混同と思われる住宅や、経費の提供を合わせると約7憶円…。



「国際標準」役員報酬の平均は、日本の10倍

日産自動車元会長カルロス・ゴーンの逮捕を受けて、話題になっているのは高額な役員報酬だ。公表されている年間額で約10憶円、退任後支払いの約10億円、インセンティブの意味合いの約8億円、それにどこまでかの線引きはともかく、公私混同と思われる住宅や、経費の提供を合わせると約7憶円と見える。

つまり、10+10+8+7=約35憶円程度が「実質的報酬」であろうと(現在のところ)推察できる。その他、ビジネスジェット、つまり日産専用機が必要であったのかどうかの議論もあるので、かなりの問題が潜んでいる。

間違えてはいけないのは、「違法性」の議論とは別の問題だ。

 

世界の役員報酬の平均データを見ると、やはり、アメリカがダントツの1位で14億円、次がドイツで7.2憶円、イギリス6億円、フランス5.3憶円と続くが、日本は1.5億円だ。どの企業を抜き出したのか分からないので、正確なところは不明としても、日本はダントツに低い。この理由についておかしな解説が多々あることとなっている。

日本の役報酬が低い理由は明確に言えないが、1つは誇るべき「日本文化」であること。

例えば、トヨタ自動車社長の豊田章男氏は、基本報酬は9900万円、賞与は2億8000万円で、総額2017年度報酬は3.8億と発表されている。これほど業績好調が続く中で、きわめて低い額と見える。一方、フランス人副社長ディディエ・ルロワ氏10億2600万円で、トヨタでトップとなっている。前期比3億円以上増加となっていながら、豊田章男氏の謙虚な額が目を引く。社長よりも副社長がダントツに多いことになる。

しかし、このトヨタの実情は少々ロジックがある。豊田章男氏が保有する自社の株式は457万4000株と見られ、受け取った配当は、2017年度配当1株につき220円なので、約10憶円と思われる。これは、かなり業績好調の中での配当でもある。つまり、3.8+10=約14憶円と見られる。豊田章男氏のその他のトヨタ法人からの利益供与は分からないが、それにしてもカルロス・ゴーンの約半額である。

 

投資家基準の報酬額でいいのか?

役員報酬の違いが、なぜこのように大きいか?の原因だが、アメリカの額を見れば分かる通り、これは「投資効率」から見た報酬額と言える。

つまり投資家は、自分の投資資金を企業経営者(取締役など)に任せることとなり、その人選は「独断で厳しい」ことが通常だ。そのため、きわめて短期間(最短2年)で配当をしなければ取締役を解任されてしまうことになる。取締役と言っても、多くはサラリーマン経営者なのだ。

そのために、十分な実績を出している時には高額の報酬を当然とする風潮がある。きわめてアメリカ流資本主義の中で考えられてきた基準なのだ。

※この、企業家・投資家の「短期主義」は、反面、問題ともなっている。「品質維持」など、実は死活問題だ。➡参考文献:企業を腐らせる”短期主義”が社会に及ぼす影響

一方で、日本では、創業家経営が未だに続いている企業も多い。トヨタも、紛れもない創業家が経営権を名実ともに握る企業だ。そこで、社員評価する基準も様変わりする。かつてのオーナー企業では、企業の中での社員の働きを「なくてはならないもの」として、「家族」のように捉えていることも多かった。「共に暮らす一員である」との捉え方だ。

また、企業を投資の対象とする見方は、ほとんどなかった。この人材に対する捉え方は、きわめてアメリカと異にする。これは、今でも日本の企業経営者の報酬の捉え方を左右している。

 

「社員は家族」「社長はオヤジ」

ホンダ(Honda)創業者の本田宗一郎の逸話を見ると、よく分かる。

現在でも、「オヤジ(本田宗一郎)ならどう考えるだろう」と自問自答して判断する社員も残っていることだろう。叱られて殴られた社員もいたようだが、それと同時に息子のように育ててくれた恩義を感じていたホンダ幹部は多い。

※参考文献【「120%の良品をめざせ!」お客様第一主義の意味深い言葉】(ホンダ公式サイトより引用
『この馬鹿っつら!阿呆っつら!馬っつら!』ときた。それから『お前、給料どこからもらってる?』『会社からです』。『会社はどこから金もらってる?』『買ってくれた人です』。『結局はお客さんからもらってるってことだ。なのに、こんないい加減な仕事しやがって、お前、そのお客さんを殺す気か!』と。ゾクッとしたな。恐ろしかったけど、おやじさんのヒューマニズムが、口先じゃなく、体中から出てるのを感じました。『人間尊重』は、今もHondaの基本理念になっているけれど、そのベースは、おやじさんのヒューマニズムです。

 

しかし今、ホンダは外国人経営者に率いられるグローバル企業だ。だからなのかわからないが、近年ホンダのF1での不振を見ると、「覇気がない」社員の言動が気になる。F1チームメンバーに”挑戦する気迫”が感じられないのだ。

【ホンダF1エンジン、瀕死】マクラーレンはメルセデスと契約か?[1]

 

企業の人間関係の中で、「年収200万円のパートのおばさん」と、「20億円の報酬の役員」との差を仕事の役割の中に見つけられるだろうか? これは極めて難しいと言わねばならない。いくら何でも、社員1,000人分の働きをする社長などいるわけがない。それぞれの役割の中で必要とされる才能や努力を見ると、1億円の報酬を社長が取れるとも思わないのだ。

例えば、自動車メーカーとして必要な「品質保証」を行える仕事の内容で見ると、役員の旗振り役も大事だが、作業員の、「ひとつの作業ミスがすべてをダメにする危険を回避しながら行う仕事」、それと1000倍の重要度の違いがあるとは考えられない。

 

やはり、役員報酬の「国際標準」の決め方の基準がおかしいと言える。特に、グーグル、マイクロソフトなどの「IT企業」と「製造業」を比較すると、「投資資金」運用の視点からでは、正常な評価はありえないと感じる。

人間社会の正常な視野から、一人の報酬の在り方を考える必要がある。

 

みんなから欠落している製造工程

IT産業と自動車産業の違いを考えてみる。

IT産業では「製造工程」が欠落しているが、自動車産業では「知識集約産業」と言われるほどで、巨大な製造過程があり、企業の約50%以上は製造にかかわる仕事だ。だから、その「良し悪し」が勝負を決めてしまう。

一方、IT(ソフト産業、ネット産業)の経営者は「製造」の概念が欠落している人が多い。テスラのイーロン・マスク氏はその典型だ。製造では、必ずしも「クリエイティブ」な人材ばかりでは成り立たない。同じ作業を確実にこなす人材もまた貴重なのだ。

また、職場で人生を送る人間の本質を理解できないと「品質保証」は成り立たない。その経験を、今、イーロン・マスク氏は経験しているところだ。アメリカ社会のひずみは、こうした本質を見誤っている。

※参考文献EV車・自動運転開発の裏にみる、自動車産業 VS IT産業のギャップとは?(財経新聞より)
「0.01%の不良率を競うシビアな製造業」と「フリーズしても肝要なIT産業」の差である。0.01%の不良率といったら、1万個の製品を造ってやっと1個の不良が出るかでないか。特に、日本製品は「100%良品」という考え方が普通で、不良品はあってはならないのだ。一方、IT産業のパソコンOS「Windows」を例にとってみると、使用時にフリーズすることはかなりの確率である。

また、机上の金融知識のみで経営をしている人物からも「製造の概念」が欠落している人が多い。カルロス・ゴーンもその1人だろう。

 

誤っている現代経済理論、高額役員報酬は社会に適うのか?

さてそもそも、「世界標準」の高額な役員報酬が、この人間社会に適っているのかどうか根本的に見てみよう。

『8人が人類の半分の資産を保有する』社会システムが、正常である訳がない。これには言い訳無用である。「世界標準」とする社会システムを反省すべき時だ。人類の存続をかけて、「平等な配分」を主張する『ピケティ理論』を十分に検討してみる必要がある。格差による戦争の危険が増しているのだ。

第1次、第2次世界大戦は、産業革命がもたらした「量産」効果で経済が拡張して、覇権を争って拡張する必要性が背景となっていた。現在の米中貿易戦争も、こうした経済の覇権争いだ。産業の革命は常に覇権争いを起こしていく。現在、核兵器が戦争の歯止めになっている現実が、日本に周囲に起きているのだ。

現在、「第4次産業革命」が進行している中で、どの様な変化が起きようとしているのか?

短期的利益を求める「投資家の雇われ経営者の報酬」について、現実の動きを捉えて決められないと、この歪(8人が人類の半分の資産を保有する、世界の富の82%、1%の富裕層に集中)は大きくなり、アメリカ社会と言えども修正の力が働き、あつれきが起こるだろう。

そもそも人間の「衣・食・住」を満たすために人類の産業はあるのであり、金融・投資・SNSなどは全て製造に繋がる補助作業であると見る必要がある。例えば、金融だけでは人類にとって存在意義はない。資金の運用で莫大な利益が出るからと言って、「投資を目的化」しては誤りだ

そして、役員報酬も、あくまでも投資が中心ではないことを心して決めなければならない。

↓↓↓こちらは、経済学者トマ・ピケティ氏の説いた「21世紀の資本」を読みやすくしたマンガ版。原版は、世界で累計100万部を突破、アメリカで50万部、日本でも10万部を超えたようだ。学術本なのに、一般にも売れた本であることは、多くの人の関心を引いた本であることは間違いない。マンガ版はすでに中古でしか読めなくなっている。

↓↓↓こちらは、ネット上で賛否を巻き起こした『白饅頭note』が、遂に書籍化となったもの。SNSが可視化した私たちの関心と無関心を語る!「なんかおかしい」の疑問を説く本!

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